アトピー性皮膚炎は飼い主と愛犬にとってとても辛い病気です。なぜ辛いかというと、愛犬は痒くて、皮膚を掻きこわし、夜も眠れなくなります。そしてその姿を見守る飼い主にとっても、痒みで苦しむ愛犬の姿を目の当たりにするのは精神的にも大変です。
今回の記事では、アトピー性皮膚炎の対策・治療について深掘りします
目次
犬のアトピー性皮膚炎とは
生まれつきの体質疾患で、強い痒みを伴います。季節性があり、皮膚が黒ずんだり、脱毛・ふけなどの症状も見られます。
このワンちゃんは、アトピー性皮膚炎と診断され、飼い主さんと動物病院のチーム医療で無事改善しました!(そよかぜ動物病院 提供)
アトピー性皮膚炎の原因
環境中の微細な物質を吸い込んだり、皮膚に接触したりすることでなります。
生まれつきの体質なので犬によってアトピー性皮膚炎の原因は異なることも知っておく必要があります。
アトピー性皮膚炎の痒みによる病状
痒みには季節性があり、暖かい春先などから痒みが発症
- かきむしる・舐め壊す
- 皮膚が炎症を起こして赤くなり、ただれる
- 皮膚が黒くなり、硬くなる
- 脱毛が起きる
- フケが目立つようになる
- 皮膚が脂っぽくなりべとつく
- 皮膚が臭い匂いがする
体質疾患なので、一般的には完治はしません。痒みのコントロールが必要になり、痒みが強い時は積極的に痒み止めの薬を使用して、皮膚のケアを早急に行います。
アトピー性皮膚炎とマラセチア症
「マラセチア」というのは皮膚に存在する常在菌(酵母菌)の一種で、皮膚の脂を餌として増える酵母菌です。正常な皮膚にも一定数存在します。しかし、皮膚のバランスが崩れると体質的に皮膚が脂っぽくなり、その脂のせいでマラセチアが過剰に繁殖して病害を起こします。
このことから、マラセチア症と診断されたら、アトピー性皮膚炎などの皮膚の何らかの基礎的な病気がある可能性を考える必要があります。よって治療はマラセチア症の治療に焦点を当てるのではなく、皮膚のアンバランスを引き起こしている原因を追求して根本治療を行います。
「マラセチア症=皮膚のアンバランス」
アレルギー性皮膚炎の分類
アレルギー性皮膚炎は食物アレルギーと環境因子によるアレルギー性皮膚炎に分類されています。そして、この環境因子による痒みを起こすアレルギー性疾患をアトピー性皮膚炎と呼び、原因物質は、空気中に舞っているハウスダスト・花粉などの微粒子によって引き起こされます。
アトピー性皮膚炎になりやすい犬種
ウェスティー・柴犬・トイプードルなどがアトピー性皮膚炎になりやすい犬種です
犬のアトピー性皮膚炎の診断
診断方法は大きく分けて3つあります
①favrotの診断基準に照らし合わせる
②血液検査による診断
③投薬による診断
「favrot」による診断基準に該当するか?
2010年に犬の皮膚科において「favrot」という研究者によって診断基準が決められました。
favrot et al. Vet Dermatol.21:23-31,2010
犬のアトピー性皮膚炎の診断基準
以下の項目をチェックしてみてください
- 3歳未満で発症
- 主に室内飼育
- ステロイドを使うと痒みが良くなる
- 慢性的または再発を繰り返すマラセチア感染
- 前足の肉球に痒み、または関節の屈曲部に痒みがある
- 耳介に痒みがある
- 耳の先端は痒くない
- 腰背部に痒みはない
5項目当てはまれば
特異度 80%(8割の確率でアトピー性皮膚炎)
6項目当てはまれば
特異度90%(9割の確率でアトピー性皮膚炎)
つまり、アトピー性皮膚炎の診断には、「飼い主さんにこの上記の条件にあてはまるか」をちゃんと問診することが必要です。
アトピー性皮膚炎の痒みの部位
ほとんどの犬種でアトピー性皮膚炎の痒みがよく起きる箇所は「目の周辺」「口の周辺」「関節がこすれる場所」「肉球」「耳の中」です。しかし、犬種や個体差によって痒みの場所が異なるので、自分の愛犬の痒みの場所をよく把握することはとっても重要です。
血液検査で診断する方法
動物病院で採血を行い、血液検査をすることで、ハウスダスト・花粉などの環境中の物質にアレルギー反応が起きているかを判定する検査です。
血液検査でのメリットは?
診断が確定可能。
血液検査のデメリットは?
時間が2週間ほどかかる。
費用が高く、3万〜5万円程度で、調べる項目が増えれば料金もアップします。
現在の診断方法は?
アトピー性皮膚炎に限定する痒み止めの薬が開発されています。この薬を処方することで、痒みの改善が見られれば、アトピー性皮膚炎と仮診断ができます。
治療の3原則を知る
犬のアトピー性皮膚炎では、かゆみの負の循環を止める事が治療への第一歩です。
「かきむしる!」「舐める!」などの皮膚の痒みによって、皮膚に「炎症」が生じ、その炎症によって、痒みに敏感な皮膚状態になっていきます。そして、痒みの連鎖反応がおき、皮膚の構造が崩れてしまう。
①「痒み止めの内服」
魔法の薬「アポキル」
アポキルの主成分はオクラシチニブです。この成分は痒みの伝達物質であるサイトカインIL-31受容体であるJAK-2を選択的にブロックしてくれます。つまり、痒みの神経ブロックしてくれる薬剤です。特徴としては、最新の遺伝子工学で開発された分子標的薬で、ピンポイントで痒みのシグナルを遮断してくれるので、副作用がなく、安全に使用できます。
薬を飲めない愛犬には「サイトポイント」持続型の痒み止め注射
世界初の犬のアトピー性皮膚炎の抗体医薬品です。この成分ロキベトマブは、痒みの成分となるIL-31に対して血液中で結合して、痒みの信号を阻害します。さらにサイトポイント®は、1回の注射で1ヵ月間、犬アトピー性皮膚炎による掻痒や症状を緩和します。
②「外用薬(塗り薬)を使いこなす』
外用薬(塗り薬)は、局所的な痒みに、とても効果的です。どの薬にもステロイド剤が配合されており、1日1回までという使用原則があります。
外用薬は
- まず塗布できる場所なのか?(目とか口は避ける)
- 毛をかき分けて確実に塗布する
- 可能なら塗り込む
- 1日一回
外用薬の種類は「液体軟膏タイプ」「スプレータイプ」の2種類がありますが、選択は飼い主の好み で決まります。
痒み止め&抗炎症薬の塗り薬
モメタオチック
液体軟膏のステロイド剤です。
モメタオチックは犬の外耳炎用で使用されていましたが、アトピー性皮膚炎で痒い場所に塗る薬として活躍しています。
たらっと垂らすタイプのステロイド剤です
メリット
安全で使いやすく、細かい場所や広い場所などの足の裏などにも塗りやすい。効果も抜群!
デメリット
量が少ない割に、少し値段的に高い
イズオチック
液体軟膏のステロイド剤です。
イズオチックは犬の外耳炎用で使用されていましたが、アトピー性皮膚炎で痒い場所に塗る薬として活躍しています。
プッシュ式タイプのステロイド剤です
メリット
安全で使いやすく、細かい場所や広い場所などの足の裏などにも塗りやすい。効果も抜群!
デメリット
少し値段的に高い
アレリーフローション
ペン式のステロイド剤です。
マカーペンのように肌に押し付けて塗るステロイド剤です
メリット
安全で使いやすく、細かい場所などの足の裏などにも塗りやすい
デメリット
細かい場所は使用しやすいですが、広い場所には使いにくい
コルタバンススプレー
スプレー式のステロイド剤です。
とても使用しやすく、霧状になるため、肌にまんべんなく噴霧することができます。
メリット
安全で使いやすい
デメリット
独特の匂いがするので、苦手な子もいます。
保湿を必ず行う
アトピー性皮膚炎になっていると、皮膚が痒みで炎症が生じ、傷だらけで、皮膚のバランス機能が失われています。最終的には痒みに対してとても敏感になっている敏感肌なので、皮膚を保護する必要があります。人間でも皮膚のケアは保湿が必要であることが周知の事実で、犬のアトピー性皮膚炎でもとても重要であることがわかったいます。一日1回位は保湿を行なってください。
③皮膚に良い食材の選択
アトピー性皮膚炎に特化した食事
アトピー性皮膚炎の3割は食物アレルギーになっている可能性が高いので、食事に対して気をつけるのは当然だと思ってください。
正常の犬の皮膚は皮膚のターンオーバーが通常28日と言われており、比較的ゆっくり皮膚は生まれ変わっていきます、しかしアトピー性皮膚炎になると、ターンオーバーは数時間とせれています。そのため、大量のフケなどが見られるのはこのせいです。このように皮膚の生まれ変わりが早いとそれだく皮膚細胞のためのエネルギーが枯渇していきます。これを食事として補給する必要があります。
食事に必要な2成分!
オメガ3脂肪酸などの不飽和脂肪酸
ビタミンE ビタミンC ビタミンB群
サプリメントの併用
今食べている食事を変えることができない場合は、オメガ3脂肪酸などの不飽和脂肪酸を多く含むアンチノールが推奨されます。
Q:「飲み薬のステロイド」は使用しない方がいいの?
犬のアトピー性皮膚炎の難治症例(コントロールが難しい場合)の時には、一時的に使用します。ステロイドは用法容量を正しく守れば、アトピー性皮膚炎に対してとても効果的で、痒みをしっかりと止めてくれます。昔はプレドニゾロンなどのステロイドの飲み薬に頼るしかありませんでした。そこで、ストロイド剤の乱用によって副作用が頻繁に報告されるようになり、「ステロイド=副作用」 という方程式が出来上がってしまいました。犬のアトピー性皮膚炎では症状がひどい時に、一時的に使用することで、症状をコントロールできるようになります。もちろん使いすぎず、獣医師に相談しながら使用しましょう。
アトピー性皮膚炎は完治が困難
アトピー性皮膚炎は治すのではなく痒みをコントロールして、愛犬の生活の質を改善させてあげる事
そして、上手に病気と向き合っていくことです。
まとめ
アトピー性皮膚炎は治すのではなく痒みをコントロールして、愛犬の生活の質を改善させてあげる事が重要です。
つまり、いつから、どこら辺が痒くなるのか?自分の愛犬のウィークポイント(痒みが出る場所)を正確に把握しておくことと、どのお薬と相性がいいのかを最初に試して知っておけば、実はアトピー性皮膚炎のコントロールは可能なんです
治らない病気だからこそ、上手に対応してあげれば、病気はすごく良くなります。
アトピー性皮膚炎は上手に病気と向き合っていくことを覚えておいてください。
最後に。究極の治療は「減感作療法」
減感作療法とはアレルギーを引き起こしている物質を少しずつ体内に摂取させて、体を慣れさせる治療法のことです。犬のアトピー性皮膚炎の原因がはっきりとわかっていれば、原因物質を注射や経口で体内に摂取させることで、アトピー性皮膚炎は治療できます。理論的には、、ですが。
現在国内で、動物薬で認可を受けている減感作療法のお薬はDelf-1と呼ばれるコナヒョウヒダニのタンパク質を精製して作成された「アレルミューン」というお薬が有名です。
コナヒョウヒダニに対してアレルギー性皮膚炎を起こしている愛犬に効果的な治療ができるので根治が期待できます。
減感作療法のデメリット
- コナヒョウヒダニが原因になっているのか?を判断する必要がある。
- コナヒョウヒダニにしか効果がない
- 注射を複数回定期的に接種する必要がある。
- 治療費がやや高額である。